小さな物語(長男二郎の推理No.4)

竜飛岬灯台


日常の中にドラマがある。
その一瞬を切り取って、小さな物語を妄想する。
その妄想を文字に起こした短い短い物語。


長男二郎の推理(しんじいの災難)


<主な登場人物>
東雲 二郎(しののめ じろう) 
通称ジロ。商店街の一角にあるラーメン屋の二代目。
海野 みなみ(うみの みなみ)
通称ミー。短大に通うラーメン屋のアルバイト店員。
紙谷 信二(かみや しんじ) 
通称しんじい。先代の時から通う常連客。退職後は店に入り浸っている。
轟 鉄男(とどろき てつお) 
通称アイアンマン。地元警察署の警部。
布目 京子(ぬのめ きょうこ)
通称キョン。二郎が父親と子どもの頃に通っていた和菓子屋の娘。


※ これはNo.3のつづきです。
もしよろしければ、右の「小説」をポッチしてそちらからご覧ください。
スマホ版でご覧の方は本文の下にあります。



被害者の手帳



京子のカフェ「タンポポ」は駅から一番離れた商店街の外れにあった。
ということは、被害者の住まいに一番近いところにあるということでもある。
これは期待できるかもしれないと二郎は思った。

カフェの前の駐車スペースには、たくさんの鉢植えの花が一つだけのパラソル席を取り囲むようにして置かれていた。

「きれいな花ですね。でも世話が大変でしょ」
「さあ?」
「好きなことなら大変なんてことはないってことですね」
「いえ、これわたしが世話してないから。息子がやってるんですよ、花屋を」
「そうなんですか。息子さんがねえ」
「自分の店に置ききれないからってここにね」
「いやあ、カフェが華やいでいいじゃないですか」
「変でしょ。男のくせに」
「いやあ、男だって花は好きですよ」
京子は二郎の顔を見て吹き出した。
「ええ、なに?」
京子は笑いをこらえながら言った。
「だって、ジロちゃんがその顔で」
そういいながら再び吹き出した。
「俺だって花ぐらい」
二郎の言い訳も聞かないまま、京子はお腹を押さえながら店にそそくさと入っていってしまった。

言いかけた言葉を飲み込み、二郎も慌てて後を追った。

「いらっしゃいませ」
という可愛らしい声が聞こえてきた。
「この子、さおりちゃん。影のオーナーよ」
そう言って、カウンターの中にいる笑顔のかわいい女性に向かって人差し指を立てた。
「そしてわたしが表のオーナー」
「ママったら、やめてよ」
「どうも。アルバイトさんですか」
「いえ、娘です」
「ジロちゃん、こんな小さな店でアルバイトなんて雇えるわけないでしょ。家族経営よ、カ、ゾ、ク、経営」
そういうと京子は着替えてくるといって奥へと消えた。

窓際の席に座り、ロイヤルミルクティーを頼んだ。
さおりがそれを運んできたとき、被害者のことを知っているか訊ねてみた。

「ええ知っています。いつもここの席に座って、なにかメモのようなものを書いておられました」
「話したことはありますか」
「はい、ときどき」
「どんなことを」
「そうですね、名前のこととか」
「名前?」
「はい。ママと同じ名前でしたので」
うっかりしていたが、被害者も京子という名前だった。
「字も全く一緒で、二人でママを見ながら笑っていたことを覚えています。あの物静で優しそうな京子さんが亡くなったと新聞で知ってびっくりしました」
「そうですか。お仕事中申し訳ないのですが、もう少しお話を伺えませんか」
「はい、いいですよ。ちょうど今、お店も暇なときですから」
そう言うと、ロイヤルミルクティーを運んできたトレイを抱えたまま、対面する席に腰を下ろした。

「ジオちゃん、嫁入り前のうちの娘に手を出さないでよ」
奥から着替えを終えた京子がジーンズに白のTシャツというラフな姿で現れた。さきほどまでまとめていた髪を下ろした彼女は、その賑やかな口を開かなければ、二郎の店に置いている雑誌の中のモデルのようだと、二郎は思った。

鏡京子殺人事件のことで知り合いが逮捕されたことを親子に伝えた。

「わたしはあまり話したことはないけど、さおりはときどきしゃべってたわよね」
「でもそんなに話したことはないわよ。だって、京子さんいつもうつむいてメモ帳ばかり見ていたもの」
二郎は、そのメモ帳のことが気になった。
「どんなメモ帳でしたか」
「たしか手帳ぐらいの大きさのものでした。そうだ、表紙に小さな写真が貼ってありました。何の写真だったか分かりませんが」
「写真ねえ」

被害者はその手帳に何を書いていたのだろう。
二郎はそこに大きな手掛かりがあるような気がした。なぜならこの事件は、被害者の身近な者による犯行のような気がしていたからだ。
二郎がそう思った理由は二つ。

一つは、死因が焼死ということだ。刺殺でも撲殺でも絞殺でもない。
若い女性が灯油を浴びせられて火を点けられたので。それだけでも被害者に対する強い怨恨を感じる。犯人は彼女が炎に包まれて苦しみもがく姿を見ながら何を思ったのだろう。
一人静かに街の片隅で生きていた女性が、これほどまでのことをされるほど恨まれることとはいったいなんなのだろ。
二郎はそのことを知りたかった。
きっとその理由がわかる何かが手帳には記されているに違いない、なぜかそんな確信めいたものを感じていた。

二つ目は、若い女性が暗くなってから、人通りの少ないしかも自宅から二駅離れた河川敷をひとりで歩くことは考えにくい。おそらく犯人が彼女を殺害するためにそこに誘ったのに違いない。そして被害者が心を許した相手でなければ、そんな場所にのこのことはついていかないはずだ。思いを寄せる男性か、よほど親しい友人といったところだろうが、これまでの情報ではそのような者はまだ見えてきていない。

故郷で被災した彼女は、家族を失った辛さに打ちひしがれながらこの街で孤独に生きていたに違いない。その孤独から解放されることのない時間をここで過ごしてきたのだろう。犯人はそんな被害者の心のすき間に付け込んで近づいたのかもしれない。
もしそうであるなら、絶対に犯人を許せないと二郎は思った。

きっと孤独から救われたいと思った被害者は、犯人とのなんらかのやりとりをそのメモ帳にしたためていたはずだ。
だが、犯人がもし彼女の手帳に気づいていたならば、それを持ち去った可能性もある。
仮に、この手帳がどこかに残されているのであれば、それは大きな手掛かりになることは間違いない。二郎はすでに冷たくなってしまったロイヤルミルクティーを一気に飲み干しながら、手帳が残されていることを祈った。

「ジロさん、わたしにもそれ手伝わせて」
と京子が唐突に言い出した。
「えっ、キョン、それは無理だよ。第一に君とはまったく関係がない事件だろ」
「そんなことないわよ、店のお客さんだし、それに私と同じ名前の子だし」
「そんなことで」
「あなただって、そのなんとかいう爺さん、店の客なんでしょ」
「いや、俺の方は長い付き合いで」
そう言いかけた時、突然カフェの扉が勢いよく開き、入り口の観葉植物の葉が大きく揺れた。

「警部待ってくださいよ」
あの声は、と思った次の瞬間、あの強面の轟警部の顔が飛び込んできた。
二郎と警部の二人は、お互いに「あっ」と声を発して、それぞれの相手に向かって指をさしあった。

「なんであんたがここにいるんだ」
「そっちこそなんで」
あとから入ってきた若い刑事は、しんじい逮捕の時に店に入ってきた刑事のうちの一人だった。

その若い刑事は二人が指をさしあって驚いている姿を見て、
「だれです?」
とのんきなことを言いながら、強面の方を覗き込んだ。

「お前はだからだめなんだよ。関係者の顔ぐらい覚えておけ」

関係者?
俺は関係者だったのか、と二郎は思った。


                     ・・・つづく



ブログランキング参加

温かいご声援をありがとうございます
スポンサーサイト



コメント

コメント(0)
コメント投稿
非公開コメント

プロフィール

こうさん

Author:こうさん
バイク、旅、街歩き、キャンプ、読書、映画、そして一杯のcoffeeを愛するふつうのオヤジ

YouTube [ kou san ぽんこつライダー ]
Blob [ tatibanasi.jp ]
Twitter [ @kousanTW ]
Instagram [ sankou603 ]

温かいご声援を有難うございます。ポッチしていただけると嬉しいです。


にほんブログ村 オヤジ日記ブログへ

最新コメント

月別アーカイブ

FC2アフィリエイト

FC2アフィリエイト

FC2アフィリエイト

FC2アフィリエイト

FC2アフィリエイト

たちばなし

カレンダー

06 | 2020/07 | 08
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR