小さな物語(長男二郎の推理No.2)

竜飛岬灯台

日常の中にドラマがある。
その一瞬を切り取って、小さな物語を妄想する。
その妄想を文字に起こした短い短い物語。


長男二郎の推理(しんじいの災難)

<主な登場人物>
東雲 二郎(しののめ じろう) 
通称ジロ。商店街の一角にあるラーメン屋の二代目。
海野 みなみ(うみの みなみ)
通称ミー。短大に通うラーメン屋のアルバイト店員。
紙谷 信二(かみや しんじ) 
通称しんじい。先代の時から通う常連客。退職後は店に入り浸っている。
轟 鉄男(とどろき てつお) 
通称アイアンマン。地元警察署の警部。

※ これはNo.1のつづきです。もしよろしければ、右の「小説」をポッチしてそちらからご覧ください。

しんじいは俺が助ける

きょうの店内はいつもと様子が違った。
うちの居間に鎮座していたソファーが急に無くなったような大きな寂しさを感じながら、二郎とみなみは無言で開店準備をしていた。

しんじいには家族はいなかったはずだ。
親戚とも疎遠になっているから、俺が死んだら後は頼むよと冗談のように話していた。
だから自分とミーちゃん以外にだれも彼が逮捕されたことは知らないはずだ。
当然面会に訪れる者もいないに決まっている。
そう二郎は思うと、なんだか自分のことのように悲しくなって涙を浮かべた。
そんなジロの背中を見ていたみなみにも涙があふれた。
開店の11時をとうに過ぎていたが、ふたりとも店を開ける気にはなれなかった。

「ミーちゃん、きょう店閉めていいか」
「はい。・・わたしも行きます」
「なに?」
「行くんでしょ。しんじいに会いに」
「えっ、なんでわかったの?」
「わかりますよ。しんじいは、わたしにのおじいちゃんですから」

昨夜受け取った名刺を頼りに、警部の轟鉄男を訪ねた。
大きな警察署のしかも刑事課を訪ねるという経験は、二人にとっても初めてのことだ。
どこへ行けばよいかもわからない。
警察署を入ると受付があり、そこに立っていた姿勢の良い女性警官が二人にことを目で追っていた。受付で警部の名刺を見せて用件を伝えると、別室で待つようにと案内された。
長机にスチール椅子が6つ隙間なく押し込まれた小さな会議室だった。中に入ると、二郎は自分が取り調べを受ける身になったような緊張を覚えた。みなみも不安そうな面持ちだった。

30分ほどたったころ、足早に近づいてくる靴音が聞こえてきた。
警部だなっと思った瞬間、
「いやあ、」
という大きな声と同時に、勢いよく会議室のドアが開いた。
「すみません。お待たせしました」
しわがれた声を背後から浴びせられた。
不意を突かれ、二郎は中腰のままこうべを垂れた。
みなみは立ち上がることさえできないでいた。
「いやあ、せっかく来ていただいたのに申し訳ないのですが、まだ取り調べ中で会わせることができないんですよ」
「じいさんがやったというのは、新聞に載っていたあの焼死体の事件ですか」
「そうです」
「そんな!しんじいがそんな恐ろしいことするわけないです」
みなみが間髪入れずに反論した。
その勢いに警部は少し驚いたようだった。
「あなたは?容疑者のお孫さん?」
「いいえ違います。彼女はうちの店の従業員です」
「そうですか。しんじいって言うんですか、彼。」
二郎は、警部がしんじいのことを彼と呼んだことに少しの安堵感を覚えた。
この機を逃すまいと、
「じいさんがやったという証拠があるとおっしゃっていましたが、それはどんな証拠なんですか」
「それは言えません」
やはりだめか。ではあの事を聞いてみよう。
「焼死体の人はいつ殺されたのですか。ひょっとたら、俺たちじいさんのアリバイってやつを証明できるかもしれないので、教えてもらえると助かるのですが」
「わからないなあ。ただの客でしょ。どうしてそれだけのことでこんなところまで」
「じいさんは、うちの昔からの常連さんなんですよ」
「ほう、昔からのねえ」
「いや、昔からのというより特別なといったほうがいいかもしれません。先代からの付き合いなんです。俺がガキの頃からの」
「うーん。そうですか」
警部は、内ポケットから黒革の手帳を出して、それを見るでもなくぺらぺらとめくった。
「まあ、あなたたちは直接の関係者ではないから、当たり障りのない程度のことなら教えても構わないでしょう」
「有難うございます」
みなみが突然中腰になって頭(こうべ)を深く垂れた。

警部が話し始めた時、みなみの手にはいつの間にかメモ帳とペンが握られていた。
そのメモには、【山吹川河川敷OL殺人事件】と、勝手にこんな事件名が付されていた。

あとからメモを見せてもらって気づいたが、この警部、結構な情報を提供してくれていた。
さすがに詳しい身元や、しんじいが容疑者となった証拠については口を開かなかったが、これだけ情報があれば、被害者の身元はすぐに判明するだろうと、ジロは思った。

「絶対に違いますよね。だって、あのしんじいが若い女性と関係があるはずがないもの。こんなかわいい私にだって、これっぽっちも興味を示したことがないんですから」
みなみがかわいいかどうか、しんじいが若い女性と関係があったかどうかはさておき、彼が殺人をするような人物ではないことだけは、二郎にも確信があった。

突然みなみのお腹が鳴る大きな音が聞こえた。
みなみは恥ずかしそうにお腹のあたりを両手で押さえながら、
「こんな時でも、お腹すくんですね」
と言って、かわいく舌先を出した。

しんじいがどういう訳で捕まったのかわからないが、二郎たちは必ず彼を救い出すという決意を胸に秘めながら、近くのファーストフード店を目指した。

・・・つづく。

ブログランキングに参加しています。
また、いつも温かい拍手をありがとうございます。励みになります。


にほんブログ村 オヤジ日記ブログへ
スポンサーサイト



コメント

コメント(0)
コメント投稿
非公開コメント

プロフィール

こうさん

Author:こうさん
バイク、旅、街歩き、キャンプ、読書、映画、そして一杯のcoffeeを愛するふつうのオヤジ

YouTube [ kou san ぽんこつライダー ]
Blob [ tatibanasi.jp ]
Twitter [ @kousanTW ]
Instagram [ sankou603 ]

温かいご声援を有難うございます。ポッチしていただけると嬉しいです。


にほんブログ村 オヤジ日記ブログへ

最新コメント

月別アーカイブ

FC2アフィリエイト

FC2アフィリエイト

FC2アフィリエイト

FC2アフィリエイト

FC2アフィリエイト

たちばなし

カレンダー

06 | 2020/07 | 08
- - - 1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31 -

検索フォーム

ブロとも申請フォーム

QRコード

QR