小さな物語(長男二郎の推理No.3)

竜飛岬灯台

日常の中にドラマがある。
その一瞬を切り取って、小さな物語を妄想する。
その妄想を文字に起こした短い短い物語。


長男二郎の推理(しんじいの災難)

<主な登場人物>
東雲 二郎(しののめ じろう) 
通称ジロ。商店街の一角にあるラーメン屋の二代目。
海野 みなみ(うみの みなみ)
通称ミー。短大に通うラーメン屋のアルバイト店員。
紙谷 信二(かみや しんじ) 
通称しんじい。先代の時から通う常連客。退職後は店に入り浸っている。
轟 鉄男(とどろき てつお) 
通称アイアンマン。地元警察署の警部。
布目 京子(ぬのめ きょうこ)
通称キョン。二郎が父親と子どもの頃に通っていた和菓子屋の娘。

※ これはNo.1、2のつづきです。もしよろしければ、右の「小説」をポッチしてそちらからご覧ください。スマホの方は本文の下にあります。

長男二郎立ち上がる

みなみメモによると、
・二日前の未明、山吹川河川敷で何かが燃えていると、新聞配達員から通報があった。
・最寄りの警察官が駆け付け、焼かれたばかりの死体を発見した。
・鑑定の結果、焼死体は若い女性と判明。二つ先の駅に近いマンションに一人暮らし。
・その後、土手の茂みから発見されたバッグの中にあったドラッグストアの会員証から身元が判明。
・市内の会社に勤める一人暮らしのOL、鏡京子。

ジロは地元の仲間や知り合いに事情を話し、地域のネットワークを生かして事件の情報を得ようと試みた。
そうして得られた情報は次のようなものであった。
〇 被害者鏡京子の住まいは、2つ先の小金駅から駅前の小金銀座商店街を通り抜けたところにある築20年の5階建てマンションの302号室。
〇 彼女は週に2~3度、商店街の八百屋で野菜や果物を購入していた。
〇 彼女は小柄で服装もいつも清楚な感じで、しっかり者の娘さんという印象だった。
〇 いつも一人で、誰かと連れ立っているところを見かけることはなかった。
〇 マンションの所有者によると、彼女は岩手県花巻市の出身で、家族がそちらにいるかどうかは定かではないが、大地震の津波で被害に遭い、それを機に東京に出てきたとのこと。
〇 会社帰りに週に2~3度、商店街の外れにある喫茶「タンポポ」で、一人で紅茶を飲んでいた。
こんな情報が半日もかからずに、二郎のもとに届けられた。それを聞いて、みなみは、
「さすが地元番長のジロさん」とからかった。
ジロは、地元で番長をしていたわけではないが、その風貌と面倒見の良さから、中学生のころからそう呼ばれていた。それだけに、地元にはかなり顔が利いた。
なかには女性のファンもいて、ジロさんのためならばと情報を集めてくれた同年代の女性もいた。

次の日も店を閉めた。そしてこれらの情報をもとに、二郎はまず小金駅から被害者のマンションまで歩いてみることにした。そうすることによって、普通のOLがなぜあんな惨い殺され方をしなければならなかったのか、その手掛かりがつかめるように思ったからだ。
小金駅前は二郎が子どものころから数えきれないほど訪れている場所だった。幼いころは、ラーメン屋の定休日に父親と一緒によく、ここにあったスバル座という映画館に怪獣ものや父親の好きな任侠シリーズの映画を見に来た。
駅の改札から出ると正面に寂れかけた小金銀座商店街が広がっていた。小さな駅前広場を渡り、錆びついたアーケードをくぐった。
すでに何年もシャッターが閉まっているだろうと思われる店が何件かあった。その一つはどんな店だったか未だに覚えている。シャッターは錆びつき、どこかの若者が勝手に書いたであろうスプレーの文字さえかすれてきていた。
鏡京子はなぜこの寂しい街に越してきたのだろうか。あの震災でどんな痛手を負ったのだろうか。この街に知り合いでもいたのだろうか。彼女のことがわかれば、彼女が殺された理由もわかるような気がした。
商店街の中ほどに、彼女が週に2~3度訪れていたという八百屋があった。
八百屋の主人に事情を説明して、話を聞くことができた。主人の話から次のようなことがわかった。
〇 彼女は漁師だった両親を、あの震災で亡くしていた。だが、彼女には兄がいて、その兄は現在も岩手に住んでいる。
〇 会社へ行くのに、毎日小金駅を利用していた。ただ会社については知らないという。
〇 店に来ると、いつも決まって同じものを買っていた。店主が他の物を進めると、料理が上手くないから似たようなレパートリーで、材料も玉ねぎ、ジャガイモ、にんじん、きのこ類、そしてリンゴと、同じものになってしまうのだと笑って答えたそうだ。そしていつも、もっと勉強してうまくなったら別の野菜も買うね、と申し訳なさそうに答えていたとのことだった。

変化のない毎日。質素な暮らし。自らの生活の枠を広げようとしない生き方。二郎は、彼女の真面目で謙虚な暮らしぶりから、その人柄や彼女が抱えていたものに触れたような気がした。

八百屋を出た後、二郎はなぜかシャッターが閉まっていたあの店のことが気になった。もう長い間この商店街には足を踏み入れていなかった。その間に、風のうわさであの店が閉店になったことを聞いていた。
二郎がこの店に通っていたのは、小学生の頃だった。確か和菓子屋だったと子どもながらに記憶していた。いつも映画の帰りによって、下戸だった父親と店先の縁台に腰を降ろして団子を食べた。店主は着物姿の似合う美しい人だった。父親は、子ども心にこの女性のことを好いていると感じていた。そうでなければ、いくら下戸のオヤジでも欠かさずに毎回訪れることはなかっただろう。
二郎が中学生になると、一緒に映画を観ることもなくなったので、その後美しい店主と父親がどうなったかということは知る由もない。しかし、二人の関係が自分の知らないところでも続いていてほしいと密かに思っていた。

そんなことを店のシャッターに両手をついて考えていると、ふいに背後から女性の声がした。
「あのう。何か御用でしたか?」
驚いて振り向くと、そこには首にタオルをかけたジャージ姿のナイスバディの女性が立っていた。どうもランニングの途中のようだ。ご近所さんかと二郎は思った。
「いえ、昔この店によく来ていたので懐かしくて」
「そうなんですか。いつごろのことですか」
「子どもの頃のことで」
「あっ、ひょっとしてジロちゃん?」
知らない女性に、突然ジロちゃんと言われて二郎は戸惑った。
「あたし、あたしよ。ほら、ここの店の」
「えっ、おてんばキョン!」
「おてんばは余計よ」
「すみません」
彼女は、いつもここで団子を食べていると店の奥から出てきて、気づかないうちに彼の団子を食べたり、バカと書いた紙を背中に貼りつけたりして、いつも二郎をからかっていたおてんばの一人娘だった。
あの清楚な母親とは似ても似つかない娘で、二郎が唯一苦手としていた相手だった。その娘と奇遇にもここで出会うとは思ってもみなかった。
「お母さんはどうされていますか」
二郎は気になっていた母親のことを訊ねた。
「5年前に病気で亡くしました」
「それは失礼しました」
「いいんです。ジロさんのお父さんは?」
「はい。癌で、もう十年ほどになります」
「そうでしたか。この店を閉めたころですね」
「そうだ、うちの店に来ませんか。すぐそこなの。今はタンポポってカフェをしているの。」
「えっ」
タンポポは、鏡京子が週に2~3度通っていたという店だ。そこのオーナーならば彼女のことを知っているだろう。二郎は京子の店に寄っていくことにした。
店に向かう道々、父親のことを訊ねてみた。
京子もはっきりとは覚えていなかった。それども父親が一人で来たところを見たことはないということであった。
少年の二郎は、あの和服姿の美しい女性と父親が一緒になってくれないかと願っていた。しかし、二人が結ばれていればあのおてんばキョンと一緒に暮らす羽目になっていた。そのことを思うと、二郎はそっと胸をなでおろしていた。

そして、二郎はいまから行くタンポポで新たな事実を聞くことができるような予感がしていた。
「しんじい、待ってろよ。俺が必ず助けてやるからな」
二郎は、改めてそう心に誓った。



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